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大阪家庭裁判所 昭和37年(家)3927号 審判 1962年8月22日

申立人 金正連(仮名)

(本籍 大阪市 住所申立人に同じ)

未成年者 山田良子(仮名)

主文

申立人が未成年者山田良子を養子とすることを許可する。

理由

一、本件調査の結果によると、次の事実が認められる。

申立人の本籍地は、朝鮮の北緯三八度線以南にある。申立人は、日本に永年住んでいて、昭和二四年三月頃未成年者を近隣の朝鮮人某から養女として養育するつもりで引取つたが、未成年者がどういう事情でその朝鮮人某の許に居たのか分からず、ただ余りにもあわれな有様であつたので、可愛想に思い貰いうけた。その後申立人は現在まで一〇数年未成年者を実子のように養育して来たが、現在日本に在住していても、老令であり日雇以外に適当な職もないので、北鮮に帰国する方が、経済的にも子供らの教育のためにも良いと考え、帰国を強く希望している。

しかし、未成年者については、日本人であるため養子縁組をしなければ連れ帰ることが出来ないので本件申立てに及んだものである。未成年者の実父山田三雄は昭和二四年九月二八日死亡していて、実母小柳千恵が、未成年者を幼少の頃に朝鮮人の石田某に金三万円をつけて引取らせたもので、現在では再婚して夫との間に子供が一人あり、本件について呼出にも応じない。一方未成年者は、永年養育してもらつた申立人と共に北鮮に行くことを希望しており、実母の許に帰る気持は毛頭ない旨を述べている。なお北鮮においては、日本から帰還した朝鮮人に衣食住を確保し、その子弟の教育にも努力している模様である。

二、そこで養親となるべき申立人の準拠法については、法例第一九条第一項によりその本国法によるべきところ、現在朝鮮には南北二つの政府が対立し、いずれも朝鮮全域に主権を有することを主張して抗争しており、それぞれ支配する地域に別箇の法秩序を有することは顕著な事実である。かかる状態は二つの国家があるかの観を呈しているけれども、なお一つの国家とみるのが相当であるから、一国内に数法が存する場合と類似しているものというべく、法例第二七条第三項を類推してその者の属する地方の法律により準拠法を決定するのが妥当であり、その属人法を決定するについては、いずれの地域が最も密接な関係をもつかにより決定すべきであるから、その標準として、本籍ならびに現在および過去の住所居所があげられるが、本件の如き特種の事態については、将来いずれの地域に住み、どの政府に属したいかという申立人の意思が、明白に十分確定している場合に、これも加える必要がある。

しかして、申立人の如く、現在日本に居住し、南鮮に本籍があり、北鮮に帰国を希望していることが明らかな者は、その帰国の意思を標準として、準拠法を決定するのが最も妥当と考えられるので、申立人と最も密接な地域は北鮮となるから北鮮法をもつて本国法として適用するのが本来相当である。

ところが、現在北鮮法の内容は知ることが出来ない以上、条理により判断するべきであるが、そのため、北鮮と同一民族であり、風俗習慣の近似しているものと考えられる大韓民国民法を適用することが、妥当と考えられるので同法を適用し未成年者については日本民法を適用して判断することとする。

三、なお、未成年者には、前記の如く実母が居るが、幼少の頃に別れたままで、互に親密さはなく、未成年者は実母の許に行くことを希望せず、実母は未成年者をいまさら引取つて養育する気持もないと推認されるので、一〇数年にわたり愛育をうけた申立人と共に、将来も養育されることがむしろ幸福であろうと考えられ、かつ申立人と北鮮に共に帰国したいという未成年者の意思を尊重して、本件申立てを相当と認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 相賀照之)

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